馬車の話

今回は、仏教説話の中より「馬車の話」をご紹介することにいたしましょう。

ある国の王様が馬車で外出をしようとしたところ、ピカピカだった馬車はボロボロに壊れ、きれいな皮の飾りもビリビリに裂かれていました。

王様「なんということだ!一体誰のしわざだ!」

王様はかんしゃくを起こして大声でどなりました。大臣がおそるおそる言いました。

大臣「王様、皮ひもにかみついたあとがあります。それから犬の毛が…。」

大臣の言葉が終わらないうちに、王様はカンカンになって命令しました。

王様「ええい、がまんならん。 町中の犬を見つけしだい殺してしまえ!」

さあ大変です。町中で犬の捕獲がはじまりました。これを知った犬の王様は、この大事件を解決するために急いでお城へかけつけました。

犬の王様「王様の馬車を犬が台無しにしてしまったという話ですが、それを実際にごらんになったのですか?」

王様「いや、見てはいないが、咬んだ後と犬の毛があった。それがなによりの証拠じゃ。」

犬の王様「それでは、町中の犬が犯人なのですか?」王様「いや、そうではないが、どの犬なのかわからないからだ。犯人さえわかれば、命令をやめてもかまわん。」

犬の王様「それではここに王様の犬を連れてきてください。そしてミルクにクシャの葉をまぜて飲ませてください。」

家来が言われた通りにしました。2ひきの子犬は間もなく気分が悪くなって、食べたものをはき出しました。すると、その中には馬車の皮ひものかけらがありました。王様は、自分の犬が犯人だと知ってびっくりしました。そこで王様は、犬の王様に尋ねました。

王様「わしの犬が犯人だと、どうしてすぐにわかったのだ?」

犬の王様「理由はかんたんです。お城には高い塀がめぐらされています。だったらお城の中の犬にしか、あんなことはできないでしょう。」

王様「なるほど。しかし、わしはなぜそのことに気がつかなかった?」

犬の王様「それは、王様が腹を立てていたからです。そんな時には目の前にあるものさえ見えません。そればかりか、ふつうならできないようなおそろしいことも平気でやってしまうのです。王様が罪もない町の犬をみな殺しにしようとしたみたいに。」

王様「う~ん、悪いことをしてしまった。わしはかんしゃく持ちでな。自分でも治るといいとおもうのだが、どうしたものだろう…。」

犬の王様「静かに心を落ち着けて、自分をふりかえってみるのです。そうすれば、今まで見えなかったものが見えてくるでしょう。それを大切にして、考え深い人になるように努めることです…。」

と…このようなお話ですがいかがでしょうか?もうおわかりのように、このお話はうかつに腹を立てることの愚かさを戒めたものです。私達もこのようなお話を教訓として、恥ずかしい行いは慎みたいものですね。


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