佛立開導日扇聖人御教歌
大かたは人めつゝしむばかりにて 冥の照覧おもはざりけり
人の批評・評判は気になりますから、悪く言われないよう努めます。しかし、仏さまの勤務評定を忘れている信者が多い、気をつけなければならないとお示しのお歌です。
井伏 鱒二という小説家は、川釣りの名人として知られていました。人の評判など一切気にせず、自分で得心のいくように竿をふって名人芸を楽しんでいました。
ある日のこと、ハヤを釣っていると、後ろに立った男女があって、男が無遠慮に、釣った魚を売ってくれという。失礼な人間だと黙殺していると、女の声が更に追い打ちをかけて、「どうせ釣れないのよ。きっとへたくそなのね」と言う。
よし、こいつらの目の前で、プロの腕前を見せてやれと、数分後、かかった魚を心臓をドキドキさせながら手元に引き寄せ、どんなもんだと後ろを振り返ったら、くだんの男女はとうの昔にいなくなっていたという話を書いています。
人に良く思われようとしたのが失敗だった。まだまだ自分は本当の釣り人ではない。とこの小説家は苦笑しています。
ご信心は人のためにするのではありませんから、いくら人がほめてくれても、修行をしなくては無功徳です。
言い訳・愚痴・自己弁護をしないで、仏祖のお喜びをいただくように努めましょう。
(前進 昭和58年8月1日発行)